大学生が初めてぶつかる就活の壁

先日、大学生の就職支援に携わるキャリアカウンセラーの方(有名大学のキャリアセンターに所属している方です…)から、こんな話を聞きました。

中学受験を勝ち抜き、進学校でも上位に入り、周囲から「頭がいい」「将来有望だ」と言われ続けてきた学生が、就職活動で初めて“つまずく”ことがあるそうです。

  • 偏差値や点数のような明確な指標がない
  • 努力しても落とされる
  • なぜ不合格なのかも分からない

そうした経験に耐えられず、選考から逃げてしまったり、「もう人から評価されたくない」と動けなくなったりする学生もいるといいます。

私はこの話を聞いて考えさせられました。他人事ではないからです。

では、なぜ勉強を頑張り、努力を続けてきた若者が、社会に出る直前で立ち止まってしまうのか?

これは受験勉強そのものの問題ではありません。むしろ、子ども時代に「自分で決めること」「失敗すること」「失敗から立て直すこと」を、どれだけ経験してきたかという問題なのではないか。そんな危機感すら覚えます。

実際、大学のキャリア支援の現場では、「失敗や不合格の経験がないまま、就職活動で最初の挫折を経験する学生が多い」という声があります。就活は、受験のように努力量や点数と結果が一直線につながる世界ではありません。どれだけ準備しても落ちることがあり、その理由も明確には分からない。こうした「自分ではコントロールできない失敗」に直面すると、強いショックを受ける学生もいます。心理学の研究でも、失敗への恐れや「ミスをしてはいけない」という完璧主義的な傾向が強いほど、キャリア選択の困難さや就活ストレスが高まりやすいことが報告されています。

だからこそ、子ども時代には、失敗をすべて取り除くのではなく、小さく失敗できる余地を残しておくことが大切なのだと思います。「忘れ物をする」「思ったような点数が取れない」「自分で決めた方法がうまくいかない」…。そうした経験の中で、「失敗しても終わりではない」「自分で考え直せばいい」と学ぶことが、将来の失敗に耐え、立て直す力につながっていくと考えています。


 

では、キャリア形成で重要なことは何か?

受験や試験で成果を出すことは、将来の選択肢を広げる一つの方法です。しかし、「受験で成功しなければ、その後も不利になる」と考える必要はありません。企業を対象とした調査や研究でも、就職活動では受験と異なる能力や経験が評価されていることがわかります。

経団連の調査では、「採用で特に重視する要素」として選ばれたのは、コミュニケーション能力:87.0%、主体性:63.8%、協調性:49.1%、学業成績:4.5% でした。ただし、これは「学力を見ていない」という意味ではありません。学業成績を「見ている」と答えた企業は過半数にのぼっています。また、オハイオ州立大学の調査では、課外活動に一つ以上参加した学生は、参加しなかった学生より、卒業時に就職内定を持っている割合が1.8倍でした。

重要なのは、「勉強しなくてよい」ということではありません。受験勉強では、基礎学力、努力する力、目標に向かって継続する力が育ちます。一方で、部活動、アルバイト、探究、留学、ボランティア、インターンなどでは、「人と協力すること」、「失敗から修正すること」、「自分で判断すること」、「自分の経験を言葉にすること」を学びます。社会に出ると、「正解を知っているか」だけでなく、「何が問題なのかを考え、自分なりに判断し、行動できるか」が問われるからです。

だから私は、子どもの将来を考えるとき、偏差値や合格校だけを物差しにする必要はないと考えています。基礎学力を確保しながら、本人が夢中になれる経験や、自分で考えて行動する経験も大切にする。受験は人生のゴールではなく、成長するための一つの機会なのだと思います。


 

文科省が「探究」を学びの中心に据える理由

こう考えると、文部科学省が「探究的な学び」を重視している理由も見えてきます。探究では、最初から正解が用意されているわけではありません。

  • 「自分で問いを立てて調べる」→「仮説を立てる」→「他者と話す」→「試してみる」→「うまくいかなければ修正する」

この一連の経験は、「自分で決める」「失敗する」「考え直す」という経験そのものです。そして、この力は生成AIの登場によって、さらに重要になっていると私は考えています。

これまで社会では、「正解を出す」「文章をまとめる」「情報を整理する」といった機能的な能力そのものに大きな価値がありました。しかし生成AIは、こうした作業の多くを短時間でこなせるようになっています。もちろん、機能的な価値が不要になるわけではありません。一方で(研究を見ると)、消費者が商品やサービスに感じる価値は機能だけではありません。(34か国・82研究を統合したメタ分析では)「情緒的価値」が消費行動を左右する最も強い要因でした。つまりこれからは、「何ができるか」だけではなく、「なぜそれをするのか」「誰のためにするのか」「どんな意味があるのか」「相手にどんな経験や感情を届けたいのか」まで考えることが、これまで以上に重要になります。

生成AIは〈平均的な答え〉を作ることはできます。しかし、「何を問うのか」「何に価値を感じるのか」「どんな未来をつくりたいのか」まで、自動的に決めてくれるわけではありません。だからこそ、これからの教育には、知識を身につけるだけでなく、自分で問いを持ち、他者と関わり、試し、失敗し、そこから意味をつくる経験が不可欠なのだと思います。それは、正解のない社会を生きるための練習です。子ども達にとって、その最初のハードルが就職活動なのです。受験勉強で基礎学力を身につけること。そして探究を通じて、自分で問い、自分で決め、自分で立て直す力を身につけること。これからの子どもたちには、その両方が必要なのだと思います。


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