授業で扱う単語量の増加
2021年の学習指導要領改訂により、学校英語はより実践的な「4技能5領域 」①聞くこと②読むこと③話すこと④書くことをバランス良く学ぶことに重きが置かれるようになりました。小学校でも英語の授業が時間割に入り、中高で扱う英語の単語数は1.6倍(2002年と比較)に増えています。しかし、授業回数は変わっていません。
- 英単語数は20年で1.6倍も増加した
【2002年】
小学:なし 中学:900個 高校:1800個
【2021年(学習指導要領改訂後)】
小学:600個 中学:1700個 高校:1800~2500個
一回当たりの授業内容は、単語数だけで1.6倍、スピーキング&リスニングの分量はおよそ2倍になっています。単純に計算しても3.2倍(=1.6倍×2倍)のボリュームがあります。
授業内容とテストに大きなギャップ
20年前と比較しても英語の授業は様変わりしています。『読む・聞く・話す』中心の授業に変わり、50分のうち活動的な内容が7割を占めるようになりました。ならば、定期テストも『読む・聞く・話す』を中心としたテストにするべきですが、現状はそうなっていません。テストの80%はライティングで、リスニングは(高くても)20%程度です。
- 一般的な定期テスト(1年1学期)
つまり、授業は『読む・聞く・話す』がメインであるにもかかわらず、テストは『書く』ことがメインになっているのです。そこに大きなギャップがあります。
中学定期テストが“ふたこぶ分布”になる理由
現場の先生方もこの状況に声を上げています。全国の英語教員が参加する「新英語教育研究会」事務局長の柏村みね子氏は次のように指摘しています。
『いまの中1の教科書はとにかく難しい。レッスン1から複数の文法事項が詰め込まれ、新出単語も英文の量も増えている。そのうえ会話や表現活動、スピーキングテスト対策も求められる。これまでなら普通にできていたはずの子がついてこられなくなっている』
定期テストは上位者と下位者が二極化した“ふたこぶ”分布になっていることが多いようです。では、なぜこのような状況でも、上位者が一定数存在するのでしょうか。理由は単純で、テストを見据えて『書く』ことに重きを置いた勉強をやっているからです。そういった生徒に限って、英会話塾に通った経験がないという場合がほとんどです。
以上の結果をふまえ、対策は1つの要素に収斂されます。『書く』ことに注力するということです。
英語力向上=『書く』ことの重要性
英語の理解には単語力が欠かせません。単語力と英語のテスト結果は相関するという事実は今も昔も変わらない事実です。具体的に、どのような学習が必要か整理していきます。
まずは、教科書の英文の“わからない単語”をひろっていくことが大切です。書く作業に慣れていない生徒ほど、基本単語の意味がつかめない生徒は多いようです。それらを1つずつノートに書いていき、その都度5回くらい書きながら意味を捉えていきます。その際、単語は英文を見ながら書くのではなく、一度覚えてから「なるべく見ないで」書くことで記憶の定着をはかります(これをリトリーバルという)。一度、頭の中で反芻し、それでも出てこなければ見るという作業を意識します。単語のスペルは発音しながら、文字の並びを手で覚えていくという作業も必要です。単語がつかめたら、英文を一文ずつ順番に読み進めていきます。
【“書く”作業メインの英語学習】
- 教科書の英文を音読する
- 辞書を使いながら「わからない単語」を書きだし意味を調べる&何度か書き取り練習をする
- (おおまかな理解でも)口頭で英文を和訳する
- 教科書の英文をそのまま書く
脳科学/心理学/学習科学の論文で効果が確認されている記憶学習法
★の数が多いほど効果的であることを示す
1.まとめ
重要なポイントをまとめてノートに書き出す
2.自己説明 ★★
重要なポイントを自分自身に向かって説明
3.線引き
テキストの重要な箇所に線を引く
4.キーワード
英単語など語呂合わせやキーワードを使って記憶
5.熟考 ★
学んだ内容で疑問に感じたことを突き詰めて考える
6.イメージ
学んだことを頭の中で画像のように鮮明にイメージ
7.読み直し
テキストやノートを繰り返し読み返す
8.テスト ★★★
学んだことを理解できているかテスト
9.インターバル ★★★
一度学んだことを時間を空けて勉強し直す
10.混ぜ合わせ ★
ちがう科目やジャンルを交互に勉強する
最も学習効果が高い記憶学習法
上記の1~10が一般的な学習法ですが、その中でも記憶学習に適したものが『振り返り(=リトリーバル)』です。これは一度忘れた事柄を自分の記憶だけを頼りに、もう一度引っ張り出すことを意味します。英語なら教科書で学習した内容を、テキストなどを見ないで目をつぶって再現する作業です。(筑波大付属小では20年以上前から全授業で実施)
『振り返り(=リトリーバル)』
自分の頭だけを使って学習した内容を思い出す
・振り返りが効果的な理由
効果的な学習法の共通点は「脳に適度な負荷がかかる」ことです。テストやインターバルは、一度記憶したことを自分の頭だけで記憶を引き出すことになります。その際、テキストを見ることはできないから、自分の記憶の定着度合いを自分自身で判断する機会が生まれます。それにより自身の学習効果を客観視できるようになり、それが次の学習にプラスの効果を生みます。
例)単語(例.beautiful)を覚える場合
見たままを書き写すのではなく、頭の中でまとまりをイメージし、記憶を引き出すように書くことが大切です。
・悪い覚え方 → 1文字ずつ見て書いて覚える
・良い覚え方 → beau/ti/fulなど、小さなまとまりで覚える
理想的には予習中心の学習へ
“勉強が苦手な生徒”が望んでいることは、学校の授業内容が理解できることです。上記のように、今の中学英語はボリュームが増えています。また4技能の影響から、しっかりと英語のルール(=文法)を教えないまま、授業が進んでしまうことがほとんどです。文章の読み方のルールが定着しないまま、英文を読むことになりますので、苦手な生徒が増えるのも仕方ありません。だからこそ、今やっているの授業内容を理解するための対策が必要です。それが予習中心の学習になります。スマイルスタディで実践している英語授業を紹介します。
例.中学2年生の授業「Unit3(NEW HORIZON.2)」
扱う文法:to不定詞
❶ 扱う文法がどのようなものかの簡潔な説明
❷ (その文法の)英文の訳し方の確認
❸ “書く”作業がメインの英語授業①~④
❶文法の簡単な説明
例)to不定詞を20分程度で説明する
→ 日本語でも動詞は1文に1つしかない
(×)今朝、早く起きた英語の勉強をした。
→ 2つの文をつなげると…
「今朝、早く起きた」「英語の勉強をした」
今朝、英語の勉強をするために早く起きた。
→ こんなとき、[to+動詞]で「名詞になったり」「名詞を説明したり」「名詞以外を説明したり」する
→ I got up early to study English this morning.
「今朝、英語の勉強をするために早く起きた。」
❷英文の訳し方
『to不定詞』が“どこに係っているか”を確認しながら訳していきます。“どこに係るか”によって3つの使い方(「名詞になる(=名詞的用法)」,「名詞を説明する(=形容詞的)」,「名詞以外を説明する(=副詞的)」)という大まかな違いもわかっていきます。
❸ “書く”作業メインの英語授業(4段階)へ
書き写す段階になったら、漫然と書き写すのではなく「次にどんな単語が来るか」「その理由はなぜか」を推測しながら書いていくと効果的です。
「英語が苦手で…」と答える生徒の割合が急激に増えていると感じたのが3年くらい前のことです。「読解や文法がわからない」という生徒が増えています。それは年齢によらず、高校生でも共通の悩みとして英語の苦手意識が上位に挙がります。上の内容からわかるように、今の学校英語は子ども達に多くを求めすぎです。その結果、基本単語も定着しないまま、難しい英文を解釈しなかればいけない状況が生まれてしまいました。英語が嫌いになってしまう理由もわかります。中学生に入る前の段階で、”書くこと”に特化した英語学習を推奨してほしいと思います。